こじらせ女子のつまらない出来事

長めの文章が好きな方へ

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赤・黄色・緑、黒 【短編小説】

novelcluster.hatenablog.jp

はじめて参加します。

やっと、やっと締切までに書き上げることができました。

 

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猫カフェならぬ、鳥カフェっていうのに行ったんだ」
と、サナエが言ったので、アキラはふわりと漂っていた意識がいきなり現実に引き戻されたような、そんな感覚に陥った。
 2月なのに、もう春を通り越して夏になってしまったような気すらする、暑い日の午後だった。サナエは蛍光がかった黄色の服を着ていて、まぶしい。きつい日差しと交じって目に付き刺さってくるようだった。
 サナエはいつもよく喋る。誰かが口を挟まなければ、永遠に一人で話し続けていられるタイプだ。いつも話題は目まぐるしく変わる。
 なんでも、鳥カフェには、オウムにインコ、ふくろうや鷹、ハヤブサといった多種多様な鳥が飼われていて、人に慣れた鳥たちと触れ合ったり、遊ぶ姿を眺めたりできるのだという。
 みてみて、と、向けられたスマートフォンの画面には、広げた両腕いっぱいに、黄色の小さなインコをたくさん乗せたサナエの写真があった。
「梟だけいる梟カフェとかね、小鳥だけ集めたカフェもあるんだって」
スクロールされていく画面には、次々と鳥の写真が現れる。
 緑。黄色。赤。広げた羽。白い小鳥。縞柄のふわふわ、梟。くちばし、眼。
 鮮やかで、目まぐるしい。
 サナエの友人だという女性が、両腕から肩から、頭まで隙間がないほどびっしりと大型の鳥を乗せている写真もあった。
「このマドカ、すごいでしょう。なんか懐かれちゃってね。鳥けっこう重いよーって」
 乗せているというよりも、埋め尽くされているという言葉がぴったりだとアキラは思ったが、口には出さないようにした。きっとサナエをがっかりさせてしまうだろうからだ。口が悪く、皮肉屋のアキラは、何かにつけ人の神経を逆撫でする発言をしてしまう。
「鳥なんて、小学校で文鳥飼ってたくらいで、全然触ったことなかったんだけどね。すごいよね。綺麗だし、かわいい」
 このままどんどん仲間の鳥を集めて、獲物を埋め尽くして、息ができないくらいに覆ってしまって、それから、いっせいに嘴を突き立てたらどうだろう。マドカの白い肌を突き破ってピンク色の肉を啄ばんでいく。鳥たちの羽の色が変わる。
「気に入ったらね、そのまま買って帰ることもできるらしいの。鳥かごとかエサとかも一緒に売ってくれる仕組み」
 マドカの顔がサナエに変わる。鳥たちは懐いているのではない。飼いならされて仕込まれた芸を披露しているのではなくて、捕食対象だとみなして、人に群がっているのだ。
 赤、緑、白。黄色、黄色。ゆれる。カナリアの鳴き声。
 またふっと意識が飛んでいたことに気づいて、アキラはハッとした。サナエは気づいていないようだ。熱心に相槌を打ったり、リアクションを取ってやる必要がないサナエと一緒にいるのは楽だな、と思いながら、サナエの顔を見つめる。ぷっくりした唇が絶え間なく動く。ピンク色だ。
「インコとか、小さな鳥は放し飼いにされててね、部屋の中を自由に飛び回ってるの。たまに上から糞が飛んできたりとか、アクセサリーをつつかれちゃったりしてね。あーんなに自由に飛び回ってる鳥、初めて見た」
 カフェの中で放し飼いにされている鳥たちが、自由。本当にそうだろうか。
「色もすごく綺麗だし、鳥があんなにかわいいなんてね、思わなかった。もし許可がもらえたら、鳥かごを飼って、ここに一匹連れてきちゃおうかな」
 サナエの発言にアキラはぎょっとした。全身がかっと熱くなり、頭に血が上るのを感じた。何か言わなければいけないけれども、喉がかすれて、声が見つからない。
「ここの窓の手前にね、鳥かごを置いたらどうかなあ。やっぱり、インコがいいと思うんだよね。そうしたらアキラ君の」
 サナエはさも嬉しそうな顔をして、話し続ける。踊るように部屋を見回しながら、くるっと廻ってみせる。スカートが揺れる。
「アキラ君の、ベッドからよく見えるよね。窓の向こうの空が見えて、手前に黄色いインコがいたら、飛んでるみたいに見えるんじゃないかな。ねえ」
 サナエのピンク色の唇と、栗色の眼が、窓の光を反射して、きらきらと輝いていた。
 そんなの、冗談じゃない。このベッドに繋がれて、この病室から、ぼくは出られないっていうのに。そのぼくのために、小鳥を閉じ込めるなんて。
「お世話は私ができるしね。毎日お見舞いに来てるんだもん」
 アキラは叫ぼうとした。でも、喉仏を動かすことも、自分の意思で息を吐き出すことすらできなかった。アキラは確かにここにいて、サナエと毎日話しているけれども、立つことはおろか、指先ひとつ動かすことはできなかった。かろうじて瞼だけは動かすことができたから、アキラはサナエがいる時は、極力目を開いて、よく動く唇を見つめたいと思っていた。でも、それだけだ。
「ねえ、いい考えだと思うんだけど。どうかなあ。アキラ君と一緒に小鳥を飼うって、すごく素敵なことじゃないかなぁ。ねぇ、アキラ君?」
 やめてくれ、狭いところに閉じ込めて、何が自由だ、冗談じゃない。余計なお世話なんだ、いつも勝手なことばかり話して、ぼくはどこにも行けないのに、自分は自由に好きなところにばかり行って。
 アキラはそう叫びたかったが、身じろぎ一つできなかった。サナエは楽しそうに頬を緩めながら、何かに思いをめぐらせるように首を傾けている。
 その後ろの窓越しに、空の彼方へ飛び去っていく、一羽のカラスが見えた。黄色でも赤でもない、黒いカラスだった。

(2194字)

(3/1)誤字を発見したので若干の修正を加えました。

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小説を書くのは数年前に即興小説エントリを書いてみた以来でしょうか…。

学生の頃、一時はプロになりたくて、たくさん書いていたことがありました。懐かしいなぁ…。もちろん、何ともならなかったのでここにいます。

語彙力や描写力が足りないことを深く実感しつつ、語りすぎても美しくありません。

難しいところ。

また後日、振り返りエントリを書いてみたいと思います。

 

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